相続では自宅を巡って何らかのトラブルが起きることも多いです。
自身が死亡して相続が起きる際、自宅を配偶者に残したいと考える人が多いと思いますが、これがスムーズにいかないケースが多いことが指摘されていたため、これに対する手当として新しく創設されたのが配偶者居住権という概念です。
今回はこの配偶者居住権とはどういうものか解説していきます。
配偶者居住権は民法改正により新設された制度
日本の民法は、民事上でトラブルが起きないように、また起きてしまったトラブルをスムーズに解決できるように、解決の指針となるべく作られた法典です。
民法は基本的に民事に関する全ての基本ルールが格納されており、相続に関するルールもこの中に含まれています。
明治期に作られて以来、細かな改正はあったものの、大幅な見直しはこれまでされてこなかったのですが、相当前に作られた法律のため、現代の事情にそぐわない内容が多くなっていました。
相続分野においても複数の問題が指摘されており、平成30年の民法大改正で相続分野もいくつかのルール改正が行われました。
配偶者居住権という概念はその改正点の中の一つになります。
自宅を相続すると生活費がなくなる?という問題
配偶者居住権が作られたのは、従来のルールでは配偶者が自宅を相続できても、生活資金となる現預金が確保できず、生活に不安を抱えるケースが多かったからです。
事案に応じた適切な遺言書を残したり、遺産分割協議がスムーズにいくケースであれば調整もできるのですが、そうでない場合、基本的に全遺産は法定相続分で分け合うことになります。
例えば遺産が自宅不動産(価額2千万円)、現預金3千万円であったとして、妻と子どもが相続人になったとします。
法定相続分は妻と子が二分の一ずつですから、妻の全体の取り分は2500万円です。
妻が2千万円分の自宅を相続すると、現預金は500万円しか確保することができません。
老後の生活で流動性のある現預金が少ないのは不安です。
また遺産の構成によっては配偶者が自宅を売って他の相続人の取り分を確保しなければならないケースもあるなど、不具合が生じていたのです。
そこで配偶者の居住用不動産については、処分権限などがなく“住むことだけ”ができる権利=「配偶者居住権」という概念を作り出し、完全な所有権よりは価値を下げ、生活資金となる現預金を相続しやすくなるようにしたのです。
例えば上の事例を用いると、妻が配偶者居住権として1千万円分と、現預金を1500万円分相続するなどが考えられます。
この場合、他の相続人は対象不動産に関して自由利用が制限される「負担付所有権」を相続することになります。
上の例では、子は不動産にかかる負担付所有権1000万円分と現預金1500万円を承継することになります。
配偶者居住権の評価方法
評価方法については非常に複雑ですので、ここでは大枠のみの説明に止めます。
評価には遺産分割など民事上の評価と、相続税申告のための相続税評価という二面があり、それぞれ別に考えなければいけません。
民事上の評価については、他の遺産と同様に法的に拘束力のある評価方法は存在せず、相続人間による調整に任されることになります。
法務省が基本となる考え方を公表していますが、基本的にはその不動産の価値から「負担付所有権」の額を差し引いたものになります。
負担付所有権の計算は建物の耐用年数や法定利率、あるいは居住する配偶者が住む期間、または平均余命などの指標を組み合わせて、複雑な計算が求められます。
争いが生じた場合は不動産鑑定士などによる正確な価値算定が必要になることもあります。
相続税評価については民事上とは別に計算が必要で、こちらも同様に相当複雑な計算が必要になります。
基本的に配偶者居住権は土地と建物を分けて価値の算定を行うので、土地については条件を満たすことで小規模宅地の特例の適用を受けることも可能です。
配偶者居住権のルール適用は今年の4月からすでに始まっています。
どちらの評価方法も複雑で素人の方では対応が難しいと思いますので、実際に相続が起きた際には個別に専門家に相談するようにしてください。