相続=被相続人が残した財産が手に入るというイメージが強いかもしれません。
確かに多くのケースでは現預金や不動産など市場価値のある財産が承継されますが、故人に借金などの債務がある場合はどうなるのでしょうか。
今回は被相続人が債務を残している場合の相続税の計算について解説します。
被相続人の債務は遺産から控除できる
被相続人が借金を残して死亡した場合、現預金などプラスの財産だけでなく、その借金債務も相続の対象になります。
ですから相続人は相続放棄をしない限り、債務の弁済義務を負うことになります。
現実の弁済は民事上で処理することになりますが、相続税の計算では相続税法上のルールに則って一定の処理がなされます。
相続税の課税価格から債務額を差し引くことで、課税対象となる数字を小さくして相続税の負担を軽減させることができ、これを「債務控除」と呼んでいます。
債務控除の種類と適用対象者
債務控除には二種類あり、一つは一般的な借金などの債務、もう一つは葬式費用です。
葬式費用は厳密に考えれば被相続人の債務とは言えませんが、現実に費用負担が生じるものですから控除の対象として良いことになっています。
またどちらの種類かによって、債務控除の適用対象者も変わります。
①一般的な債務・・相続人と包括受遺者
②葬式費用・・a相続人と包括受遺者、b相続放棄者および相続権を喪失した者
※bは実際に葬式費用を負担した者に限る
相続放棄者や欠格などによって相続権を失った者については一般的な債務控除は適用されませんが、葬式費用については実際に負担した者はその金額分を債務控除することができます。
債務控除の対象となるもの、ならないもの
相続税の計算において債務控除として使えるものは限られており、全ての債務を控除できるわけではありません。
以下では一般的な債務と葬式費用に分けて、それぞれ債務控除として使える項目、使えない項目の例を見てみましょう。
一般的な債務で債務控除の対象になるもの
- 一般的な借金や借入金、未払いの債務
- 未払いの医療費
- 公共料金の未払い金
- 被相続人の住民税や固定資産税等で未払いのもの
- 経営しているアパート等の預かり金(返還の義務があるもの)
- 連帯債務
などです。
住民税や固定資産税については自治体から納税通知書が送られてくると思いますが、通常は何回かに分けた納付期限が設定されています。
相続開始時点において、すでに納付期限が到来している未納付分も債務控除の対象になりますが、納付期限がまだ到来していないものについても控除対象にすることができます。
納付期限というよりも、相続開始時点において納税義務が発生しているかどうかという視点で見るようにします。
一般的な債務で債務控除対象にならないもの
- 墓地など非課税財産の購入にかかる未払い金
- 弁護士費用や税理士費用
- 遺言執行費用
- 登記費用
- 土地の測量費用
- 保証債務
などです。
保証債務については主たる債務者が第一義的責任を負うものですので、直ちに被相続人にかかる債務控除の対象にはなりません。
ただし主たる債務者に対して求償しても、それが叶わない分については債務控除の対象にすることができます。
葬式費用で債務控除の対象になるもの
- 本葬儀費用
- 通夜費用
- 遺体の搬送費用
- 遺体の捜索にかかった費用
- その他葬式前後に発生した費用で通常必要となるもの
などです。
葬式費用で債務控除の対象にならないもの
- 香典の返戻金
- 法要費、法会費
などです。
個別事案で債務控除の対象になるかどうか判断に迷う項目が出てくるかもしれませんが、必要に応じて相続や税金に詳しい専門家に相談するようにしてください。