生命保険の本来の機能を考えた時、被保険者の死亡による収入のダウンをカバーすることが主たる役割と捉えることができます。
一方で、相続分野では相続税対策を目的として利用されることも多いですが、被保険者の死亡によって支払われる保険金は相続税の対象になるのでしょうか?
この答えはケースバイケースですので、本章では生命保険金と相続税の関係について見ていきます。
相続税の対象になるかは保険の契約形態によって変わる
生命保険が相続税の対象になるかどうかは一概に言うことができず、契約形態別に判断することになります。
相続税の課税対象になるのは、被相続人の死亡によって相続人等が受け取る生命保険金のうち、被相続人が保険料を負担するものです。
少しややこしいかもしれませんが、ここでは保険契約者(保険料負担者)、被保険者、保険金の受取人の三者がいることに注目しましょう。
これら登場人物の組み合わせにより、課税される税目が違ってきます。
例えばですが、父、母、子の家族がいたとして、父が死亡し被相続人となったケースを想定し、生命保険の契約形態別にどうなるか見てみましょう。
保険契約者 (保険料負担者) | 被保険者 | 保険金受取人 | 適用税目 | |
① | 父 | 父 | 子 | 相続税 |
② | 母 | 父 | 子 | 贈与税 |
③ | 子 | 父 | 子 | 所得税 |
①は父が自分に保険をかけて、子のために保険金を用意するようなケースです。
このパターンが相続税の対象になります。
保険をかけている間はまだ保険金は支払われませんので、厳密にいえば被相続人の相続財産とは言えないという見方もあります。
しかし相続税法上は、実質的に被相続人に属する財産とみなして、「みなし相続財産」として課税対象にするルールになっています。
②のパターンは相続税ではなく贈与税の適用です。
この場合、父の死亡という保険事故の発生によって支払われる保険金は、保険料を負担した母から子への贈与と考えることができるからです。
③のパターンは、保険料掛け金を支出した子が、父の死亡を理由に保険金を手にすることになるので、自分自身の儲けとして所得税の対象になります。
生命保険の非課税枠について
前項①で相続税の課税対象になる場合でも、生命保険金には一定の非課税枠が用意されており、その分の税負担を軽減することができます。
非課税枠は「500万円×法定相続人の数」です。
法定相続人が二人いる場合は1千万円が非課税枠となりますが、注意が必要なのは法定相続人の定義です。
民法上の法定相続人と、相続税法上のそれとは定義に違いがあるので、この点に注意が必要です。
例えば相続放棄をした者は民法上では法定相続人となりませんが、相続税法上では人数に含めてカウントとします。
養子については、被相続人に実子がいる場合は一人まで、実子がいない場合でも二人までしかカウントできません。
保険金は遺産分割の対象になるか?
前項①のケースで保険会社から支給される保険金は、非課税枠はあるものの相続税の対象になるわけですから、被相続人が残した相続財産として遺産分割の対象になるのでしょうか?
この場合、みなし相続財産として課税対象にはなるものの、実際に支給される保険金については、保険契約に基づいて支給されるものであり、受取人固有の財産として扱われるため、遺産分割の対象にはなりません。
この性質を利用して、相続税の納税資金の用意などの目的で生命保険が利用されることも多いです。
例えば遺産全体で現預金が少なく、相続税の負担は生じるが納税資金となる金銭を相続人に残すことが難しい場合などに有効です。
また原則として遺留分の対象にもならないので、使い勝手の良い金銭を確実に相続人に残してあげる手段として有用です。