かなり前から「空き家問題」という言葉がよく聞かれるようになっていますが、これは所有者が分からない空き家が危険を生じさせるとして全国で問題になっている事象をいいます。
家屋や土地の所有権については不動産登記というシステムで管理されているのですが、所有者不明の土地や家屋が増えてきたことによって、空き家問題とは別に課税上の問題がみられるケースも増えてきました。
これに対応するため制度改正が行われましたので、本章ではこの問題を取り上げて解説していきます。
なぜ所有者不明の土地や家屋が増えているのか?
まず、この問題の根本にある所有者不明の土地や家屋がなぜ増えているのかですが、多くの場合は相続の際に相続登記が適切になされないことが原因です。
現状では相続登記は義務化されていないので、手間を嫌って登記をしないケースも散見されます。
書類を集めて法務局で手続きを取ることも一定の手間を要しますが、それよりも大きな原因になるのが複数相続人間の調整の不備です。
遺産分割協議などがうまくいかず、その結果として登記がされないケースはよくあります。
その相続人が死亡し相続が起きると、不動産の持ち分はどんどん細分化され、もはやだれにどれだけの権利があるのか分からない、といったことになり、これが現実に問題化しているのです。
課税上の問題とは?
前項のような理由で所有者不明の不動産が増えると困るのが自治体です。
市町村などの地元の自治体は管轄域の不動産から固定資産税を徴収することができます。
課税対象者は毎年1月1日時点で当該不動産に所有権を持つ人ですが、登記簿から真の所有者を追うことができなくなると税の徴収ができなくなります。
徴税できなくなることで自治体の収入が減ってしまうことや、税負担の公平性の面でも問題となるため、現行制度を改正して対応することとされました。
課税における二つのポイント
では所有者が不明の不動産について、固定資産税を確実に徴収するため、どのように制度改正が行われたのか見てみましょう。
現に所有している者の申告の制度化
登記に記載されている所有者が死亡している場合、市町村長は条例で定めることにより、その不動産を現に所有している人物(現所有者)に対して、氏名、住所、その他固定資産税の賦課徴収に必要な事項を申告させることができるようになります。
この申告義務に違反した場合、固定資産税における他の申告制度と同様の罰則があります。
上記は令和2年の4月1日以降の条例施行後に現所有者であることを知った者について適用します。
使用者を所有者とみなす制度の拡大
市町村長は、住民基本台帳や戸籍等を調べたり、関係者への聞き取りなど一定の調査をしても、なお所有者が一人も判明しない場合、その不動産を使用している者を所有者とみなして固定資産課税台帳に登録し、固定資産税を課税することができるようになります。
使用者を所有者とみなして固定資産課税台帳に登録する場合、その旨が当該使用者に通知されます。
この②については、令和3年度以後の年度分の固定資産税について適用されます。
例えばもしあなたが今現在使用している不動産が、相続の連続等で登記が何代にもわたってなされていない場合、市町村の課税担当部局は現状で使用しているあなたに対して課税の矛先を向けてくる可能性があります。
権利関係を明らかにすることが難しく、これまでは固定資産税を徴収できなかったケースでも、今後は徴収しやすくなることから積極的に働きかけてくることが予想されます。
罰則の適用もあることから、該当しそうな人は心の準備をしておいた方がいいかもしれません。
相続登記は遡ってすることも可能ですから、重層的に複雑になっていないのであれば、面倒を避けるためにも早めに登記を済ませておく方が無難です。