親類など近親者が亡くなることは人生のうちで何度かあるとしても、親やごく身近な家族が亡くなって自分が相続人となることはそう何度も経験するわけではありません。
一般の方が相続税の処理手続きについて経験豊富になるということはまずないと思いますから、いざ自分が相続人となった時に相続税の申告手続きの要不要の判断が付かないことが多いでしょう。
この問題については一概に「財産いくら以上で申告が必要」と答えることが難しいのですが、本章では相続税申告の要不要の考え方について見ていきたいと思います。
ケースバイケースで相続税申告が必要かは変わってくる
相続税の申告は個別のケースによって申告手続きの要不要が変わってきます。
遺産額全体の大小ももちろん関係しますが、複数相続人がいる場合には、相続税申告の要不要は各相続人の事情に照らし、各人が承継する遺産額や適用となる特例、税額控除の種類などによって変わってきます。
ですから、仮に兄弟で同じ額の遺産を承継しても、片方は申告が必要でもう片方は申告不要となるケースも起こり得ます。
本当に個別のケースで取り扱いは千差万別ですので、手っ取り早く知りたいという場合は税理士に聞くのが最も早く、確実です。
それでもある程度は自分で判断できるようにしておきたいですから、次の項では事案をフィルターにかけつつ相続税申告の要不要を判断していく道筋を見ていきたいと思います。
相続税申告が必要かの判断の道筋
以下の①から順番に、フィルターにかけていく感覚で申告手続きの要不要を確かめていくことができます。
① 課税対象の遺産が基礎控除の枠内か否か
まず、被相続人が残した遺産のうち相続税の課税対象となる財産が基礎控除の枠にとどまるか否かを判定します。
基礎控除の枠は「3000万円+600万円×法定相続人の数」です。
上記の基礎控除については注意点などを別記事で解説していますので参考にしてください。
特に特例などを考慮せず、最初から遺産がこの基礎控除枠内であれば、相続税の申告手続きは不要です。
もしこの枠を最初から超えている場合、申告が必要となる可能性が残ります。
② 税額控除の適用で税額が0になるか否か
相続税には以下のような税額控除が用意されています。
- 贈与税額控除
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相次相続控除
- 外国税額控除
上記控除施策は人によって適用対象になる人とならない人がいるので、複数相続人がいる場合は各相続人ごとに使えるかどうか判断します。
税額控除を利用してもなお控除しきれない相続財産があれば、これが課税対象となるので申告と納税の手続きが必要になります。
もし上記の税額控除を適用し、税額が0になるようであれば申告手続きは基本的に不要になりますが、以下③のような特例や税額軽減措置の適用を受ける場合は例え税額が0だとしても申告手続きだけは必要になります。
③ 特例の適用を受けるか否か
相続税の手続きで利用できる各種特例を利用する場合、仮に納税が不要であっても申告だけは必要になります。
相続税の特例は何種類もあるので全部は紹介しきれませんが、ここでは代表的な二種類を挙げて説明します。
小規模宅地の特例
不動産のうち土地について、一定の条件を満たす宅地は相続税評価額を50%~80%減額して評価することができます。
この特例を適用する場合、例え税額が0となる場合でも申告手続きだけは必要になります。
配偶者の税額軽減
相続人のうち配偶者だけが利用できるもので、実際に取得した財産が法定相続分または1億6千万円以下であれば相続税がかからないという大きな負担軽減措置です。
被相続人の配偶者でこの制度を利用したい場合は、例え税額が0円となっても申告だけは必要になります。
以上、一般の方にとって申告の要不要の判断はなかなか難しいと思いますが、少なくとも遺産額が上記①の基礎控除を超えた場合には、申告を要する可能性が出てくるということは覚えておきましょう。